名作の値段

 私は子供の頃から読書家で、主に海外文学を中心に蔵書も(今さっき数えたばかりですが)272冊あります。そんな私がカフカやジョイスを読む以上に衝撃を受けた15年以上前の出来事を書こうと思います。

その頃私は大学に通う1人暮らしの学生で、お金が無く初めて出来た彼女とのデート代にも困るようなひどい有様でした。しかし彼女の誕生日ぐらいは男として少し見栄を張りたいと思い、バイトに明け暮れたのですがどうしても予算があと5000円足りない。そこで泣く泣く私は当時本棚にあった本を50冊ぐらい持って、近くのブックオフに行きました。

その中には安部公房の「友達」という戯曲、ジョイスの「フィネガンズ・ウェイク」という小説、マルケスの「千年の孤独」など今でも世界の文学史に燦然と輝く作品達があり、私としても大変心苦しい心持ちでしたが背に腹はかえられません。意を決してカウンターのお兄さんに「お願いします。」と本を預け、番号札を渡され待つこと約15分。「お待たせしました。○○番の番号札をお持ちのお客様買い取りカウンターまでお越し下さいませ。」というアナウンスが聞こえ、いそいそとカウンターに行き番号札をお兄さんに渡すと、査定額が書かれたレシートを渡されました。1冊平均80円。「は?」と思わず声が出てしまいました。作家が血の1滴1滴を白紙に塗り込んだような珠玉の作品達に付けられた値段が約80円・・・。藁にもすがるように保存状態が原因でこんなに安いのかとお兄さんに質問したところ、「えーと、だいたいこういう文学系はこのくらいの値段ですね。」との返答が。

言葉を失うとはこのことでしょう。結局私は本50冊を売らずに持ち帰りました。当然、その分彼女のお祝いは貧相になり、それが原因かどうかわかりませんが一ヶ月もせず別れを告げられました。今から思い返せば笑い話ですが、当時は結構ツラかったです。

 思い出も名作も、値段が付けられないものと老いた私は理解していますが、今の若い読書家の皆さんはどうなのでしょうか。意見を伺いたいところです。